'Tis a Long Way to Connaught

Connaughtは遠い

Russ Barenburg "When at Last"

残り少ない暇な時間を有効に使って、この間買ったCDの感想でも。明日からは真面目に卒論書きます。

When at Last

When at Last

あまりアメリカンルーツミュージックには詳しくないのだけど、それでも言わずと知れたブルーグラス界の大御所ギタリスト&マンドリニストRuss Barenbergの6枚目くらいのソロアルバム。2007年発表の現時点では最新作。ゲストにはベースにViktor Krauss、ドブロギターにJerry Douglas、フィドルにStuart Duncanという鉄板メンバーを揃えている。Dennis Crouchていうベーシストもいて、上手いんだけど、寡聞にして知らなかった。もしかして超有名だったりしますかね?

最初に書いたように私には全然ブルーグラスの知識がないので、気に入った2曲くらいについてちょいっと感想を述べるくらいにしようかと思う。

まず1曲目のLittle Monk。これがのっけから非常に良かった。ライナーノーツによれば、昔のアルバムSkip, Hop & Wobble*1のころに書かれた曲を、今風にアレンジし直したらしい。ブルーグラスのフラットピックギターはこうあるべき、というような丁寧な曲。何度も出てくるハンマリングオンがどれもすっぱり決まっていて、それが生み出すグルーブがとかく気持ちいい。ギター→フィドル→ドブロの順でテーマを繰り返すのだけど、どのパートでもきちんと使われるこのブルーグラス然とした奏法にやられた。特に好きなパートはテーマの終わりにマイナーになる部分。この曲の胆。ドブロのカット(ドブロ界で何と言うのかは分からん)は自パートの一部とこの部分でしか使われないのだが、その特殊感がフレーズだけでなく曲全体のアクセントとして機能してる。結局テーマを繰り返すだけの構成であることには異論の余地がないので(というか当たり前)、ああいうポイントポイントをぐっと際立たせる方策というのはかなり肯定的な効果を持つものなのだな。

あと7曲目のA Dream for Sophie。娘のソフィーのために書かれた1曲。ブルーグラスやカントリーと聞いてイメージされがちなアッパーなノリではなく、バーレンバーグ自身の言葉を借りれば"Atmospheric"な曲である。なんとこの曲では彼自身がギター・バリトンギターマンドリンの一人三役をこなしている。何と言ってもマンドリンの旋律の美しさには言葉を失わざるをえない。ギターとマンドリンの主・対旋律が入り組み絡みあう複雑なメロディーの中、あのキレのあるマンドリンサウンドが一際異彩を放っている。マンドリンは複弦だからチョーキングしにくいと思うのだけど、時々クイッと入ってくるのが官能的でしびれる。細かい装飾音の一つ一つが本業ギタリストならではと言ってもいい業。ただそういう業を見せつけられると、こいつ良い楽器使ってんな、とついひがみが(笑)いつかあんなにサステインのきれいなマンドリンで演奏してみたいもんだ。

他の曲もデキシーランドスタイルを踏襲してみたり、フランスのフォークソングをアレンジしてみたり、伝統から実験的な曲まで網羅していて、ほとんど撥弦楽器中心のインストアルバムでありながら飽きずに聞いていられる魅力に溢れている。俺は完全にTransatlantic Sessions経由で彼のことを知った口だけど、それだけの知識でも満足できる一枚だった。おすすめ度は高め。弦楽器好きには楽器のことを考えるだけでいろいろたまらんと思う。

そろそろ次のアルバム出してもいい頃だと思うんだけど、どうなんでしょうか。期待。

*1:Russ Barenberg, Edgar Meyer, Jerry Douglas, 1994