'Tis a Long Way to Connaught

Connaughtは遠い

Transatlantic Sessionsを振り返ろう −シリーズ3

 この間はシリーズ1を振り返ったので、今回はDVD待ちのシリーズ2を飛ばしてシリーズ3を見直してみようと思う。私が初めて触れた同シリーズであり、一番多く繰り返し見ていて、一番印象深いのがこれなので、すべての曲に触れたいのだけど、さすがに時間もないので前回と同じように1放送あたり1曲のペースで紹介することにする。

Transatlantic Sessions 3 [DVD] [Import]

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 Transatlantic Sessions 3は2007年放送のシリーズ。シリーズ2以来ほぼ9年ぶりとなる新シリーズで、いろいろ演出なりなんなり変更が加えられている。今回の舞台はスコットランド・ハイランドの農場にひっそり立つ平屋ストラスガリー・ハウスというところで、シリーズ1のヴィクトリアンな内装の部屋とはまた違う、寂れつつも暖かな素晴らしい趣を湛えている。そこで演奏するのは、またもやブリテン&アメリカのルーツミュージック界から集まった、若手から大御所までさまざまな名手たちである。
 
 ただし、今回はシリーズ1に比べると、アイルランドorスコットランド臭がものすごい。というのも今回からトランスアトランティック・セッションズ・ハウス・バンドなる常設バンドが設置されて、それにゲストを呼ぶという体制になったというのが一つの理由である。常設バンドのメンバーは、ホストのジェリー・ダグラスとアリィ・ベイン、シリーズ1から継続出演のラス・バレンバーグとドーナル・ラニー、そしてフィル・カニンガム、ドナルド・ショウ、トッド・パークス、マイケル・マクゴールドリック、ジェイムス・マッキントッシュ、ロナン・ブラウン、ドナルド・ヘイという顔ぶれで、まあ大体ブリテンアイルランドの大物を揃えましたという感じ。これを設けたことで、全体の選曲がかなりアイリッシュorスコティッシュのトラッド寄りになっている。個人的には大歓迎ではあるのだが、シリーズ1に比べるとトランスアトランティックとしての意義は薄れている気もしなくはない。

 しかしこの常設バンドの存在が、全体の雰囲気統一と演奏クオリティの大幅向上に寄与していることは間違いない。「これこそトランスアトランティック・セッションズだ!」というイメージはここで完成したといえるだろう。ゲストはしっかりと各地方から厳選されており、過去シリーズからの継続登用を含め豪華キャスティングとなっている。ゲストに関しては曲紹介中で触れようかと思う(多すぎてめんどいので)。では早速、各回を見直してみたい。


Programme One: The Swedish Jig / Untitled Jig - Sharon Shannon with Jim Murray & Gerry O'Connor
 第1回のハイライトは圧倒的にこれ。ボタンアコーディオンの女傑シャロン・シャノンをメインに、かのスティーブ・クーニー直系の弟子であるアイリッシュ・ガットギターの申し子ジム・マーレイと、アイリッシュバンジョーの神、超絶技巧ジェリー・オコナーを擁して、文句の付けようのない事実上現在の若手最強メンバー+αによるアイリッシュ・ダンスチューンとなっている。
 セット1曲目は、珍しい調の上に何か一拍多い不思議なジグだが、こういうのはアコーディオンの独擅場で、シャロン・シャノン(とフィル・カニンガム)の本気が垣間見える。ジム・マーレイのガット・ギターの音色がこの曲のつかみどころのない雰囲気を優しく包み込んでいて心地よい。
 2曲目は明るい有名チューン。こういう明るい曲はまさにシャロン・シャノンの本領が発揮されるタイプだな。マイク・マクゴールドリックのフルートがここから入るのだが、シャロン・シャノンとの息ぴったりだし、あまりに堂に入った演奏をするのでゲストを食った感すらある。しかし耳を澄ませばバンジョーは裏でなんかよく分からん超絶謎フレーズで伴奏しているし、ラス・バーレンバーグのマンドリンのハーモニーと相俟って弦楽器の存在感も半端ない。それぞれのメンバーのいいところがフルに発揮される、まさにセッションの醍醐味というものがここに体現されている。まあ巧すぎて即興感はもはや全くありませんが(笑)

Programme Two: Biodh An Deoch Seo An Laimh Mo Ruin - Julie Fowlis with Jenna Reid & Donal Lunny
 第2回はどれか飛びぬけたのを選ぶのに苦労したが、完成度という点からこのジュリー・フォウリスのスコティッシュソングをチョイス。彼女の当時の最新アルバムから大体そのままのアレンジで採用されたっぽい。
 しかし彼女の安定感抜群の歌声もさることながら、特にこの曲では周りのメンバーの演奏力をまざまざと感じる。フォウリスとお友達らしいジェンナ・レイドの柔らかいフィドルは歌声と同じくらい情感たっぷりでコーラスを歌ってるようですらあるし、ドーナル・ラニーのブズーキは相変わらずものすごいキレ(何歳までパワー維持するつもりなんだ御大は・・・)。ジェリー・ダグラスのドブロも原曲にはない軽やかさを加えていて、曲の良さが全方向から増幅されているように感じる。

Programme Three: Through The Gates - Russ Barenberg
 ラス・バーレンバーグがメインのブルーグラス・ギターの名曲。シリーズ中のほかの曲では大体ギターやらマンドリンやらで裏方に徹する彼が主旋律を張るわけだが、これがめちゃくちゃ巧い。イントロのソロもものすごい吸引力だが、間奏の別メロでの表現力は筆舌に尽くしがたい。ブルーグラス・ギターそのものの可能性を感じる演奏である。曲としては(この界隈では毎度ながら)典型的なブルーグラスの短いフレーズのリピートなのだけど、これがフォークギター以外の楽器で演奏されるパートは目新しいながら全く違和感のない適合感を生んでいる。もちろんジェリー・ダグラスのドブロは当然のすばらしい変奏を見せてくれるが、ロナン・ブラウンのフルートがブルーグラスのフレーズ感をそのまま再現していることは感動の域。本当に多い繰り返しを、毎度毎度わずかに変えて変えて、飽きずに聴かせるアレンジ・即興能力もすばらしい。まあ、これはすでにセッションと呼んでいいのか不明ではあるが・・・

Programme Four: The Streets Of Derry - Cara Dillon with Paul Brady & Sam Lakeman
 第4回からは我らがアイドル、カーラ・ディロンがゲストの一曲。何歳だよって話だけどまだまだ私の中ではアイドルです。特にこの収録のカーラは映りが良くてかわいいので必見。しかし重要なのはそこではなくて、カーラとポール・ブレイディ御大のデュエットの見事なこと。彼女の可憐な可愛らしい歌声と御大のおじさんの風格漂う渋い歌声が、相補的に絡み合っていて、これぞデュエットという感じ。世代の差を感じさせないというか接近させてるとすらいえよう。伴奏のピアノはカーラの旦那であるサム・レイクマン。こいつもなかなか聴かせるピアノを弾いており、もはや3人で完成してるんじゃね?と言いたくなる風情。
 しかし実はハープにカトリオーナ・マッケイがいるし、ロナン・ブラウンのホイッスル、アリィ・ベインのフィドル、トッド・パークスのベースも実はコンスタントに演奏している。実はね。耳を澄ますとやはり彼らの存在によって厚みが増していることが分かるのだが、やはりメインの3人が圧倒的なプレゼンスを示しているので、まあ目立たない。こういう意味ではこれもセッションらしからぬ曲だった。しかし可愛いは正義!

Programme Five: St. Anne's Reel - Aly Bain with Jerry Douglas, Russ Barenberg & Todd Parks
 ホストの二人をメインに据えた、冒頭の一曲が第5回のハイライト。言わずと知れた有名(どころではない)ダンスチューンを、それぞれの奏者がそれぞれの解釈で演奏する。おそらく各自が自分のSt. Anne's Reel像を持っているであろうに、相手のパートではそれにしっかりと調和し支える役割に移れるのには感心する。あと地味にアリィ・ベインとジェリー・ダグラスの仲のよさも感じられる。アイリッシュのというよりはジャズの、個人の素晴らしさをお互いに引き立てるようなセッションになっている。
 しかしなんといってもジェリー・ダグラスのドブロのかっこよさが全編を通して際立っている。スライド&ミュートでのイントロがもうたまらんというのに、フィドルの伴奏での親指ストロークのキレといったら鳥肌ものだし、彼のパートでの超絶変奏は衝撃的。細かな変奏はアイリッシュ・トラッドの十八番だが、ジェリー・ダグラスはその外側から、ドブロという楽器の自由度を生かして考えられる限りの大胆かつ独創的な変奏を創造し、見せ付けてくれる。初見ではいつものSt. Anne's Reelの変貌っぷりに目が覚めること請け合い。

Programme Six: Shattered Cross - Darrell Scott with Paul Brady
 最終回である第6回は、アメリカのシンガーソングライターであるダレル・スコットの一曲。ポール・ブレイディとのデュエットで。元は彼の友人であるスチュアート・アダムソンの曲だが、個人的にはスコットのシンプルかつノリのいいアレンジの方が好きだ。今回は二人ともいい年したオヤジで、年季の入った渋くて深みのある男らしい歌声の共演が聴ける。年季が入ってるのは声だけではなくて、二人ともべらぼうにギターが巧い。ポール・ブレイディは大胆かつ斬新なストロークワークによる弾き語りが本領だが、一方ダレル・スコットは緻密かつダイナミックなピッキングワークが魅力で、全くぶつかることなくダブルギターの相乗効果を生んでいる。
 二人の歌も異様にかっこいいのだけど、イントロとか間奏とかのインストパートもまたクソかっこいい。特にロナン・ブラウンのホイッスル&イリアン・パイプス。イリアン・パイプスってこんな曲にも合わせられんだなーという新境地。ドナルド・ショーのアコーディオンとのハーモニーがたまらん。そしてジェイムズ・マッキントッシュのパーカスも、ハイハットジャンベ程度の小規模セットとは思われない圧倒的表現力とグルーブ感を出している。他の奏者もそれぞれポイントポイントでアピールしてくるし、歌モノセッションの理想系ともいえるかも?

おまけ:The Kansas City Hornpipe / Jarlath's Tune - Fred Morrison with Bruce Molsky
 実はDVDにはテレビ未放送の数曲がボーナストラックとして収録されている。未放送とかもったいなさ過ぎるだろ・・・。中でも個人的に好きなのはフレッド・モリソンとブルース・モルスキーのデュオ。典型的アメリカンなリズム&メロディーのホーンパイプを、フレッド・モリソン独特のノリで演奏する。彼のイリアン・パイプスは本当に独特な響きがするのだけどあれは何のせいなのだろうか?まあそれはおいておいて、ブルース・モルスキーの5弦バンジョーがこれまたアメリカンな奏法で小気味よいリズムを伴奏として奏でており、メインがパイプスなのにカントリー臭が半端じゃない。まさにカンザスの趣。二人しか居ないのにとかく楽しげで聴いているだけでテンションが上がってくる。


 以上シリーズ3。シリーズ3は一回あたりの曲数が多いので、他にもたくさんあった素適な曲に触れられなかったのは残念。ジョアン・オズボーンとか全編通して活躍してたのに結局触れられなかった。まあこれも全体としてアイリッシュトラッドに偏り気味であったことの弊害として許容していただきたい。しかしこうして全体を通してみてみると、常設バンドという一本軸があることで、ゲストの存在感が増すアレンジが多かったということが分かるかと思う。セッションの即興感はまあ薄れたが、これはこれで全然あり、むしろもっとやれ、という感想。


さてお次はシリーズ4について書こうかしら。・・・だが来学期の集中講義に向けてのタスクが多すぎるからいつになるかは不透明・・・でもシリーズ2が届くまでにはなんとか!